1、オーディオの趣味

5)オーディオ実験室
c)、パラメトリックEQの実験
c-3)番外編
 当初この番外編は掲載する予定していませんでしたが、一月前の事ですが会社勤め時代の同僚が物故されたとの報を受け取りました。我々も既にそう言う年代に入ったと云う感慨を持ちました。そこで我々が会社勤めしていた頃の一つの成果がこの儘忘れ去られるのも忍びないと思いこの番外編を書く事にしました。
 パラメトリックイコライザの実験としてアナログ方式のイコライザを取り上げて来ましたが、番外編として私が嘗て開発に参加したデジタルFIR方式のパラメトリックイコライザの例を参考までにご紹介します。
 尤も私が担当した部分はA/D、D/A回路、他アナログ部分で、本来の『売り』の部分で有るFIRイコライザでは有りませんでどちらかと云うと末梢部に当たりますので、技術的な解説は当時のカタログのご紹介をそのまま掲載しました。尚、本機は十数年前にディスコンに成っています。私は非常に良い製品でもっと普及しても良かったと思いますが、値段も高かったので余り売れ無かった様に記憶しています。この様な先進的なイコライザ(当時は!)も有ったんだと云う事で忘れ去られる前にアーカイブしました。
 左図<FIG 5ca4a>にカタログの記載内容を掲示します。
 デジタル信号処理技術を用いてイコラジングを行う方式には、
IIR(無限インパルス列応答)方式とFIR(有限インパルス列応答)方式が在るのはご存じだと思いますが、普通にデジタルイコライザと言えばアナログ回路をシミュレートしたIIR方式を指しますが、此処で取り上げるのは実時間畳み込み器を用いたFIR方式のデジタルイコライザです。
 IIRやFIRの詳しい技術解説はデジタル信号処理の専門書
(オッペンハイムやラビナーでググってみれば直に見付かると思います。)を参照して下さい。
 特徴を簡単に書きますと、8192タップのFIRフィルタを搭載し実時間畳み込み演算処理を行って高精度のイコライジング特性を実現した事で、畳込みに使用するインパルス応答係数は、タイムストレッチドパルス信号を用いてスピーカから発音された信号を測定用マイクロフォンでピックアップしインパルス応答を求めFFTで部屋の伝達関数を計算し、之を基にして所望の伝達関数特性に成る様に修正を加えた新しい伝達関数を逆FFT処理をして新たなインパルス応答係数を作成します。
 FIRフィルタはCDプレーヤのDAC(D/Aコンバータ)でお馴染みの様に非常に急峻なフィルタ特性や、位相直線特性の実現が出来ます。唯、FIRフィルタの欠点として信号遅延時間(グループディレイ)が大きくなりますので、ライブ演奏等のPAで使用する時はフォールドバック等で遅延時間が問題になら無い様にグループディレイの小さなミニマムフェーズ特性も選べる様になっていました。家庭でルームアコースティック補正に使用して音楽再生する時等は信号遅延時間(グループディレイ)は全く問題になりませんので本来のリニアフェーズ特性を使用します。
 後、マイクロフォンアンプもコンデンサマイク用のファントム電源搭載で内蔵されていました。ADC(A/Dコンバータ)には、1ビットΣΔADCを2個使ったデジタルフローティング方式の
ADCが、DACにはノイズシェーピングに因る高域ノイズの増加の無い、亦マルチビットDACの欠点で有ったMSBエラーに因る不快ノイズの発生の無いサインマグニチュード方式のマルチビットDACが採用されていました。
 次にグラフィックリモコンが併用されており、測定した部屋の伝達関数の表示や、修正した所望の特性等をグラフを見ながらコントロール出来る便利な機能が有りました。私も輩宅で実際に試用してみましたがなかなかの優れものだったと思います。
 最近はパソコンの能力が画期的に向上して、亦メモリも沢山搭載することが出来ますので比較的簡単にソフトウエアで実現できそうに思います。実際にソフトウエアも売られている様ですが詳しいアルゴリズムが公開されていませんので購入を躊躇っています。(アルゴリズムは機密だよって!?其れはそうですな。)
 雑誌やインターネット上に多くの使用レポートや感想が発表されていますが殆どの記事が気分的な感想だけで終わって肝心の技術的な性能評価になっていないので、之又参考成らず不満の残る処で有ります。まあ特性の測定になると専門の知識、測定器が必要だったりと無い物強請りではあるのは重々承知していますが、、。
 以上の様な訳で相変わらずアナログパラメトリックイコライザに拘っています。当面は今回試作したアナログPEQを使い続け、其の後は新しくPEQが必要になった時は躊躇わずにデジタルイコライザを導入する積もりでいます。
参考文献:AMQ-1取扱説明書
    :RCQ-1取扱説明書


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