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 I)6GB8(UL)プッシュプルステレオパワーアンプ


《解説》
 本機は出力管に東芝の6GB8を使用して、最大出力の増加と出力インピーダンスを下げる事を狙ってウルトラリニア(UL)接続にしています。出力段とドライブ段はカソードフォロア直結を採用してオーバードライブ時の過渡現象の発生を抑える様にしています。
 次に位相反転回路はお馴染みのリークムラード回路になっています。最近の表現では差動一段回路と云う事になります。最近は、B)KT88(UL)PPステレオアンプにある様なドライブ段までを差動二段回路構成にする事が多い様ですが、音質的な好みで差動一段回路を採用しています。
 その代わり性能を出す為には精密な動作点の調整が必要で、差動二段回路の様に簡単には行きません。回路定数を変える度に微少出力から最大出力までの歪み率の測定をして回路定数の最適値を探します。この測定時には高調波モードの観測をして単に歪み率が下がっただけで無く奇数次高次高調波を出来るだけ少なくなる様に慎重に作業を進めます。此処で偶数次の高調波はと云いますとプッシュプルアンプですから理論的には零に成るはずですが実際には真空管の特性のバラツキ、アウトプットトランス(OPT)の平衡度の不完全さ、供給電源のドリフト等に因ってなかなか零には成って下れませんので出来るだけ少なく成る様にACバランス等の調整を行います。最終的には歪み率計のモニター出力をオシロスコープで観測して殆ど奇数次の残留歪み波形だけが観測されるまで調整を繰り返します。
 この作業には最近、オーディオプレシジョン社のシステム2デュアルドメインSYS2322Aを使用していますので可成り楽に成って来ましたが、昔は此の調整作業を会社から帰って来て寝るまでの間、夜な夜な半月から一ヶ月位掛かってやって居ました。SYS2322Aを使うと大体一回のグラフをプロットするのに要する時間は200ポイントデータを取ったとして凡そ30秒位で作図まで自動でやって下れます。人手でやると一時間以上掛かる作業で直ぐに疲れて続ける気力が無くなり適当な処で妥協してしまいます。
 この様に大変な労力を掛けて精密調整しても、AC電源電圧の変動や、アンプ内部の電源インピーダンスの影響で信号レベルの変化等でアンプの供給電源電圧が変動して動作点が動いて混変調歪みや高調波を発生させる等のが有ります。此の様な事を避ける為には電源電圧の変動が無い様にする必要が有ります。と云う事でアンプの電源に直流安定化電源を搭載する事にしました。
 此のアンプに搭載されている直流安定化電源(DCAVR)は設計が25年位前の物で私のアンプのAVRとしては3世代位前の電源ですが、入力変動、出力変動、温度ドリフト、リップル除去率等現在でも十分な性能を有して居ますのでその儘使用しました。
 因みに、スペックはVo=406V、Io=650mA、Vripple=80uV(Fc=30kHzLPF)、
ΔVt=−1.5mV/℃(Voに対して)、保護回路:垂下型電流制限回路、回転数可変冷却ファン搭載と成っています。電流制限保護回路が働くと一次フューズが溶断する様に一次電源回路には小さめの容量のフューズを入れ、普段のインラッシュ電流で飛ばない様に電源通電時インラッシュ保護回路を介挿させています。
 此の様な直流安定化電源を搭載する事に因って以上の様な調整の労力も報われる事になります。唯、之まで涙ぐましい努力をしても私の駄耳では音質的に際だった差を感じる処までは行かない様ですが音楽ソースの良し悪しは能く判る様に思います。後、真空管アンプでは手持ちのB&W802はなかなか良く鳴って下れないのですが、このアンプでは雄大に勝つ繊細に鳴って下れ大変気に入って居ます。特性的にも帰還量が普段のアンプに比べて多い事もあり頗る高性能に仕上がって居ます。
 処でこのアンプを最初に作ったのは凡そ20年位前で元々6550(T)PPアンプでした。其の後何度か少改造をして其の都度新しいネタを仕込んで現在まで生き延びて来ました。
 シャシも非磁性体ステンレスSUS304Blite、t=1.5mmを使用して溶接箇所もロボットバフ研磨機を使って磨き上げたりと結構豪勢な作りになっています。当時、大きな会社に居た恩恵で専門のスタッフの人に休み時間や休日に色々と教えて貰いながら少しずつ図面を描いて作って行った代物で当時の事を色々懐かしく思い出して愛着があります。
 外形寸法はEIAJのお約束に合わせて巾430mmに成っています。重量は凡そ25kgですが今となっては少しく重い様に成ってきました。新しく設計するのであれば、今後はモノラルアンプにして少しでも軽いアンプに為たいと思っています。
 処でOPTの色はブルーハンマートーンですが、之は私の生まれた土地のアイデンティティ色、阿波藍の色の塗料ををマンセルカラーで指定して特別に作った色です。略、当時の私の年齢に近い藍染料の年齢の色を表しています。若い藍染料は鮮やかな色ですが、染色で使われて行くと段々と枯れた色に成ってきます。 
 
《参考文献》

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